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マーケティング・エッセイ

2011-10-13 (Thu) 19:37
 

【マーケティング・エッセイ】
・不定期にマーケティング関連のエッセイを掲載します。

<産学連携について考える・・・統計学の大先生との思い出>

1.
はじめに

 筆者は十数年来、関東から九州までの大学研究者と企業や公官庁の間を取り持ち、研究者の研究成果を社会に還元する活動を行ってきました。

 本稿はそのような活動の初期の状況を顧みながら、共同研究仲介活動の中に存在する課題を概観しつつ、大学と企業や公官庁相互の契約を取り持つ境界組織として果たす役割を考察したい。

 

2.以前の状況

 今から20数年前、市場調査会社を学生の身分で設立してしまったことを発端として統計学習を行う必要性が発生した。大学では仕送りがなかったことを良いことに、アルバイトに明け暮れ、バイト先でリサーチと巡り合ったことがその後の人生に大きく影響を与えることとなった。

 大学ではろくに学習しなかったことが反動してか、必要にせまられると寝食を忘れて集中してしまうたちだが、いかんせん、当時は基礎力がなかったために、書籍を精読してもさっぱり理解できない。

 結局、出版社に電話して、直接、大先生の連絡先を教えてもらうこととなる。

 当時は、個人情報に対する意識も今ほど高くなかったし、どこの馬の骨ともわからない若造でも、出版社に"きちんと話をすれば連絡先を教えてくれるのんびりした時代背景も応援した。

 最初に、後藤秀夫先生。後藤先生は、統計学者では珍しく非常に分かりやすい書籍を上梓されている先生で、自分のような稚拙な者でも大変理解しやすい、腑に落ちる記述で明快な解答がいただける先生だった。

 そんなことを繰り返しながら、数年後に()日本マーケティング・リサーチ協会の研修委員長を仰せつかった際に、日本が誇る数量化理論を創造された林知己夫先生が既に80歳を超えていらっしゃり、創造主から直接教示を受けようと考えて、事務局長と何度か(仲良く)喧嘩しながら抗議や交渉したが、難解すぎるから受講者が集まらないという理由で実現せず、その後、亡くなってしまった。今でも悔やまれる思い出である。

 そんな活動を行いながら、ある程度の資力もできた(と当時自惚れていた)時期に、九州の民間企業に統計学習の機会を提供したいと考えて、全国の大学の社会科学系の研究者(教授陣)へ産学連携での統計講座の開催について打診した。

 多くの先生方が反対されたり、自信がないとの理由からお断りされたが、九州大学や流通科学大学、福岡大学等の先生方から承諾をいただき、開催の目途は立ったように思われた。しかしながら、実は当時、産学連携等という言葉が理工系学部の専売特許という感じで、社会科科学系の学部には契約書すら存在していなかった。

 SPSS社と提携した際も同様だが、「ないものは作らなければいけない」という若気の至りで、契約書の書物を読み漁り、学長宛に契約書を提出して実現してもらった。

 今思えば背筋がぞっとする暴挙で、現在の年齢では実現できなかっただろう。

 

3.現在の状況

 

1)共同研究費についての問題

 時は過ぎ、現在、多くの大学では、民間企業や公官庁との共同研究については、共同研究を受託するという形をとっていることが多く、相互のパートナーシップの上で成立するというよりも技術・研究シーズを共同研究希望者(民間や公官庁)に提供してあげるという上位の立場での契約となっていることが多い。

 特徴的な事は、契約条項での研究費の取り扱いが事前納付を原則として、一般的な民民取引にあるように、何らかの研究成果が納品された後に支払われるという形式になっていない。

 一方、公官庁が大学の研究者と共同研究を行う場合については、今度は公官庁側の論理が存在する。つまり、共同研究であっても、予算執行に伴う支払いは「毎年年度末にのみ支払う」という条項である。

 また、共同研究を依頼する企業については、当然成果が出る予想を持って共同研究を依頼しているのだが、成果が明確でない時点での研究費の事前納付について、資金的に余裕のある企業を除き、ベンチャー企業等で潤沢な資金を保有していない企業の場合は、事前支払いに抵抗を示す場合が多い。

 

2)研究者の研究領域と共同研究ニーズとのキャズム

 

 研究者の研究領域は専門的領域であるために、当然ながら、焦点を絞った研究が行われている。焦点を絞っているからこそ専門的な研究を可能せしめているとも言えるが、当該研究者の研究領域を含んでいても、当該共同研究へのニーズが周辺領域まで加えた研究依頼である場合には、複数の研究者を交えた複合研究事業としないと総体としての成果が生じない場合がある。しかし、これがなかなか円滑には実現しづらい。

 具体的には、その周辺領域が他の研究者の研究領域に該当する場合は、依頼した研究者と他の研究者のジョイントで共同研究がなされる場合よりも、当該研究者の研究領域に限定した共同研究契約を研究者別に複数締結する必要が生じる場合が多く、結果的にプロジェクトの進捗効率を低下させる事例が多い。

 

3)諸問題を解決するための境界組織の役割

 

(1)相互のキャズムを埋める活動

 共同研究を行う意欲のある企業や公官庁側で当該課題に対して明確な回答(シーズ)を保有している研究者が不明である場合は、境界組織である弊社やTLOなどの産学連携支援を行う組織へ相談することとなる。

 しかし、実は研究ニーズに合致する研究者を探し出してマッチングするという業務以上に、これまでに見て来たような研究開始以前の問題をスムーズに解決する事の方がプロジェクト進行前の課題としては大きく、依頼側と研究者相互の特性をある程度の許容力を伴う理解力と対応力がないと上手く実現しない。

 まずは、この「許容力を伴う理解力と対応力」が境界組織には求められるものと考えている。

 つまり、研究者と民間企業や公官庁との間で仲介役として活動する境界組織としては、相互の主張を公平に聴取しながら、良好な妥協点を模索し、企業や公官庁に対しては研究者の研究領域について理解促進を行い、研究者には共同研究の意義や他の研究者との良好な連携等も提案することとなる。

 

(2)資金問題への抵抗と現状

 

 しかし、共同研究の実施に存在する問題は、これら相互のキャズムを埋めるべく実施する関係性確保や親和性確保が要ではなく、実は、研究予算の獲得や支払いタイミングが最重要の課題である。

 特に、先に述べた資金が潤沢でないベンチャー企業等の場合は重要課題である。一般にベンチャー企業は、日々の事業活動によって得た日々の収益を貯蓄しながら研究開発を実施しており、研究予算を一括して支払えるという状況にないことも無理ないことである。

 また、研究開発費を臨時的にでも確保しようと金融機関に相談しても、共同研究によって齎される技術に対して正確にその財産的価値を評価できる人材がいないために、通常の融資制度の範囲での対応しかできない場合が多い。

 従って、このような状況を理解しつつ、その意義に感銘を受けた一部の研究者は、自らの潤沢とは言いづらい研究費の中からボランティア的に研究を引き受ける研究者や、仲介役として活動しながら、かっての筆者のように潤沢でない資金から一時的に幾ばくかの資金を拠出して支援する仲介業者も見られる。

 しかし、これらボランティア的な関係を含有する共同研究は、結局、その活動予算の僅少さから、飛躍的にイノベーティブな成果を生み出す確率は自ずと小さくなり、関与者の内の誰かの経済的もしくは時間的余裕が消失するとプロジェクトは雲散霧消してしまうということも発生してしまう。

 従って、境界組織としては、仲介役としての共同研究によって齎される技術成果の経済価値を推計し、金融面でも支援することが求められるが、各大学のTLOでも、助成金の紹介は実施しても直接的に金融支援を実施できる程の資金力のある機関は存在しない。

 留意しておくべきは、助成金はあくまで事前にある程度の焦点を絞った形で募集されていることが多く、応募期間も定められていて柔軟性が高いとは言いづらいことである。

 結果的に、潜在的な共同研究ニーズのあるベンチャー企業は、実質的に産学連携市場から撤退し、スポンサー的資金力を保有する大企業や助成金を原資として活動することが可能な企業が産学連携業界を席巻する状況となっている。

 このようなことから、短期的にでも資金供給のための道筋を提供することは重要な事で、

金融機関からの融資を受けるための客観的な研究領域の経済評価法の開発や、スポンサー組織の組織化、シンジケートファンドの設定などは本来提供すべきことであろう。

 実現には多くの課題が存在する。